私たち人間には「理想」というものがあります。現状に満足していたら理想は生まれません。理想があるというのは言い換えれば、まだ現在の状況に満たされていないと感じている部分があるということにもなります。では、理想を実現して満たされるようにするにはどうすれば良いでしょうか。
「理想」と「現実」には間隔が空いています。その距離を埋めて合致させるためには、どちらかを動かしてもう一方に近づけていく必要があります。その方法として、まず誰でも思いつくことは、理想の実現に向けて行動をしていくこと、つまり、「現実」を「理想」に向かって動かすことです。そしてもう一つ考えられることは、「理想」に対する考えや解釈を変えること、つまり頭の中で「理想」を動かして「現実」と一致させることです。
ポイントとなるのは、その判断です。
理想を動かすケースでいけないのは、実現の可能性が十分にあるのに失敗を恐れ、「すっぱい葡萄の原理」(手に入れたいがそれができないため、それを価値がないものだと思い込もうとする心理)で理想を変えてしまうことです。例えば、今の若い世代は恋愛を必要としない人が多いと聞きますが、それはコストから考えた合理的な判断であり(恋愛とはそういうものではない気がしますが)、また一人でいることが楽しく、恋人がいなくても不自由しないからだといいます。しかし、中には理想の恋人を獲得できない、恋人がいないことを惨めだと思いたくないため、そう思い込もうとしている人も多くいると思います。それは劣等感を感じることを避けようとしているためです。
同様に、雑誌やテレビの特集などで近年たまに見る「物を持たないミニマム生活」や「年収200万円で幸せな生活」といったことも、理想を現実に向けて動かしてそれが合理的だと信じるようにしていないでしょうか。「ミニマム生活」や「年収200万円生活」などの基本哲学がどのようなものかは知りませんので一概に否定はしませんが、もし、自分に正直になって考え、「本当は理想があるけど仕方なくそうしている」と感じるのであれば、私は推奨しません。(本当に質素な生活スタイルが合理的で自ら率先してやりたいことであれば、例えば宝くじなどが当たって急に裕福になっても、そのスタイルを継続するはずです。それで質素な生活を止めてしまうならそれは自己欺瞞であるということです)
では、常に現実を理想に向かって動かそうとするのが良いことなのでしょうか。やはり、そうもいかないことも現実的にはあることは誰でも知っています。理想はあっても現状をどうにも変えられないことであるなら、解釈を変えるか考えを改めるしかありません。自分ではどうにもならないことに不満を抱き続けるのは不毛なことですし、精神衛生上も良くありません。ですが、本当はまだ可能性があることなのに尻込みをして自分を騙し、解釈を変えて現状で満足しようとすれば、向上心が無くなり無気力な人間になってしまいかねません。現状をもっと良くする、理想を持ってそれに向かって希望を持って生きることは人生で非常に大切なことです。
理想を持つことは良いことですが、中には改めた方が良い類の理想をというものもあります。実現が不可能なこと、または実現の確率が低すぎるものや(例えば50代になってからプロスポーツ選手を目指すなど)、自分の努力で何とかならない運任せのこと(宝くじを当てて経済的に裕福になるなど)です。このようなものは、まず理想の内容を変更した方が無難です。
では、どのような理想を持つことが良いのでしょうか。多くの人が持つ理想は、車や家やお金、理想の恋人が欲しいなど「手に入れる」ものが多い傾向があります。前述のように、あまりに現実的ではないものや運任せのものでなければどのような理想を持つかは個人の自由ですが、私が勧めたいのは、「自分はこうなりたい」という理想です。外国語を勉強して日常会話ができるまでになりたい、資格の勉強をしてそれで仕事ができるようになりたい、楽器を自由に演奏できるようになりたいなど、学習してスキルを上げることによって獲得できる理想の自分です。
「自分はこうなりたい」という理想の良い点は、成長や成果が実感できれば楽しさを覚え、益々スキルの向上に入り込めみ、善循環が生まれることです。そうなれば、着実に理想に近づいていけます。スキルを向上させたことが収入に結びつけば、それによって結果的に「手に入れたいもの」も獲得できる可能性が高まります。もう一つ言うと、家・車・お金・恋人などは、経済的な事情や災害・その他の理由によって失う可能性がありますが、自分を向上させたスキルは失いません。一生の財産になります。
理想を持ってそれに向かって現実を近づけていければ、日々の充実感が違います。失敗を恐れたり劣等感を感じることを避けたいばかりに、今がそこそこ満足していればそれ以上求めないような無気力で理想がない人が増えるのは良くありません。理想を持ち、それに向かおうとするハングリー精神こそが人生に意味と気力と充実感をもたらす原動力となります。
理想とは現実との差を感じて惨めな気持ちにさせるためのものではありません。それに近づいていこうとすることによって、毎日に張り合いが出て充実させるためのものであるわけです。
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