ポジティブ思考は間違えると成長の妨げになる

1990年から2000年代頃にかけて「ポジティブ思考(ポジティブ・シンキング)」というものが流行りました。書店のビジネス書や自己啓発書のコーナーでもその類の本が多く並んでいました。「全ては捉え方次第だから、様々な出来事や自分の境遇や現状に対して良い解釈を選択するようにしましょう」という提言です。よく例えられるのが、好きな飲み物があり、半分飲んだ状態のコップにあるとします。これを「もう半分しかない」と考えるのではなく「まだ半分もある」と考えるようにしましょうということです。残り半分という「現実」は変わりませんが、捉え方によって「自分にとっての現実」が変わります。確かに物事の解釈・捉え方によって快・不快、幸・不幸という感覚は大きく変わりますから、これは有意義な提言です。

しかし、この「ポジティブ思考」は良い側面ばかりではありません。「ポリアンナ症候群」という名称の心的疾患があります。これは、何でもポジティブ思考することによる弊害を表す疾患です。物事を楽観的に捉えてばかりで現状の問題が解決されない、また、常に現状に満足することで向上心が無くなり、自分を成長させることもなくなるなどが代表的な例です。もし、何か達成したい目標を持っていて、向上心を持って毎日を過ごしているのであれば、ポジティブ思考は使い方を間違えると大きな害をもたらしてしまう可能性があるということです。

私は、人間性の向上を図っていくことと、人生に有意義な目的を持つという2つのことを非常に重要なことと考えていますが、いずれもポジティブ思考の害を受ける危険性があります。物事に対してどのように解釈し心的姿勢を持つかは、常に重要な目的に対して結果的にプラスになるかマイナスになるかを考えなければいけません。

例えば、上記で挙げた「人間性の向上を図っていくこと」という目的を持っているのであれば、自分の欠点を感じさせられる場面があった時、それをポジティブ思考で「それはむしろ、こういう意味で逆に良いことでもあるのだ」など、欠点ではないと考えてしまうと、せっかくの向上する機会を失ってしまいます。そればかりか問題が放置されることで状況が悪化していくことさえあります。これは間違えたポジティブ思考の仕方です。欠点が事実であればそれを認め(極力、客観的に冷静に考え、それが不当なものであると思えるのであれば、当然それは認めなくて良いですが)、それを前向きな気持ちで改善していくという意欲を持つためにポジティブ思考を利用するのが正しいやり方です。

他に、ポジティブ思考の良い適用例としては、自分ではどうすることもできず、現状を受け入れざるを得ない事に対して行うことです。例えば、過去に起きた不幸な出来事に囚われてしまう場合。過去の出来事は変えようがないので、これはもう自分では対処のしようがありません。このように自分でコントロールできず受け入れざるを得ないことに対してはポジティブ思考で解釈を変えるのは有効です。(自分の力では変えようがないことは、結構多くあります)

あとは、不安症・心配症の傾向が強い人にはそれを直すためにポジティブ思考は効果的です。私自身、若い頃は悩みやすくナーバスになりやすい性格で、いわゆる「苦労性」の面があり、どちらかというと悲観主義者でした。ポジティブ思考というのはそれを「治療」するためにとても役に立ちました。(それまでは積極的にネガティブ・シンキングを実践していたようなものだと気づくこともできます)

このようにポジティブ思考というのは素晴らしい面も多々ありますが、「全てのことにありがとう」というような、何があっても無条件に良いようにしか受け取らないような提言に対しては私は否定的です。無条件なポジティブ思考は、ただ自分にとって不快なことを避けるだけの手段となり、それはポジティブ思考というよりむしろ能天気に等しいことであり、単なる都合のよい解釈です。

しかし、自分にとって都合の悪いことや欠点などをポジティブ思考で問題でなくしてしまえば、それで何も困らない人には私の提言は意味を成さないことです。欠点や問題を積極的に認めて、それを解決していくことによって到達できるような価値の高い目的を人生に持つことが重要です。

繰り返しますが、問題点や改善点などをポジティブ思考でスルーしてしまうのではなく、例えそれが不快なことであっても有意義な目標や目的のために解決や対処が必要な問題点は認め、それを解決していく心的な姿勢として前向きな解釈をするというのが正しいポジティブ思考の方法です。
(今回は、まず毎日の生活や人生に有意義な目的や目標があるという前提の話しでした。それがない人は、まずそれを持てるようにするところから考えてみましょう。いつからでも晩くはありません)

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